自動操縦中、パイロットは何をしているのか

おはようございます。
飛行機の話になると、かなりの確率で出てくる質問があります。「自動操縦があるのだから、パイロットは座っているだけなのでは」というものです。
答えを先に書くと、自動操縦を入れている間も仕事はなくなりません。ただし、仕事の中身が変わります。手で機体を動かす作業が減り、そのぶん決めることと、確かめることが増えます。
今日は、オートパイロットが実際に何をしていて、人が何をしているのかを、順番に説明します。
自動操縦は「運転手」ではなく「舵を持つ手」です
まず、いちばん大きな誤解をほどいておきます。
オートパイロットは、行き先を考えてくれる装置ではありません。指示された状態を保つために、舵を動かし続ける装置です。
具体的に動かしているのは、次のものです。
- 操縦桿(またはサイドスティック)にあたる部分:機首の上下と、左右の傾き
- スロットル:エンジンの推力。これは厳密にはオートスロットル(オートスラスト)という別の機能で、オートパイロットと組み合わせて使います
- ラダー:機種と場面によります。詳しくは次の項で書きます
つまり、人間の手足がやっていた操作を代わりにやってくれているだけです。「時速何キロで、高度何メートルを、どの方角に向かって飛ぶか」を決めているのは、人間の側です。
車で例えるなら、運転手ではなく、ハンドルとアクセルをきれいに保ち続けてくれる装置に近いと言えます。どの道を通るか、どこで曲がるか、前に障害物があったらどうするかは、引き続き人が考えます。
ラダーも、人が踏むとは限りません
「足だけは人が踏んでいる」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。ラダーを機械が動かす場面は、少なくとも3つあります。
1つめは、ヨーダンパーです。
後退角のついた翼を持つジェット機は、放っておくと機首が左右にゆっくり振れながら、同時に左右に傾く動きを起こします。この動きを抑えるため、ラダーを小刻みに自動で当て続ける装置が入っています。これは飛行中ほぼ常時働いていて、パイロットが何か操作しているわけではありません。乗っていて機首の振れをあまり感じないのは、この装置のおかげです。
2つめは、推力の左右差を打ち消す機能です。
双発機で片方のエンジンが止まると、残ったエンジンの推力だけが片側にかかり、機首が止まった側へ振られます。これを止めるには、反対側にラダーを当てる必要があります。
従来はこれを人が踏んでいました。しかし近年の機種には、推力の左右差を検知して自動でラダーを当てる機能が入っています。私が乗っているボーイング787には、TAC(Thrust Asymmetry Compensation/推力非対称補償)と呼ばれる機能があり、エンジンの推力に左右差が出ると機体が自分でラダーを当てます。パイロットが何もしないうちに、機首の振れがかなりの部分まで抑えられます。
もちろん、それで人が何もしなくていいわけではありません。止まったエンジンの処置も、その後どこへ降りるかの判断も人の仕事です。ただ、最初の数秒で機体の向きが大きく崩れるのを機械が防いでくれるという点は、昔と大きく違うところです。
3つめは、自動着陸のときです。
自動着陸では、接地の直前から接地後にかけて、機械がラダーを動かします。
横風の中を進むとき、飛行機は風上に少し機首を向けた「斜めを向いた」姿勢で飛んでいます。そのまま接地すると脚に無理がかかるので、接地の直前に機首を滑走路の向きへ戻す必要があります。この動きを、自動着陸では機械がやります。
さらに接地したあとも、滑走路の中心線から外れないようにラダーと前輪の向きを機械が調整し続けます。これは機種の特別なサービスではなく、視界が非常に悪い状態での着陸(いわゆるCAT IIIb)を認可で行うために、制度として求められている機能です。滑走路に降りるところまでを自動にしても、降りたあと真っすぐ走れなければ意味がないからです。
まとめると、「操縦桿は機械、ラダーは人」という線引きは成り立ちません。どこまでを機械に任せるかは、機種と場面によって決まっています。
誰が「どこへ、どの高さで、どの速さで」を決めているのか
では、人は何を決めているのか。大きく2つの入口があります。
1つめは、飛行管理装置への経路の入力です。
出発前に、その日の経路、通過する地点、巡航する高度、使う滑走路と進入方式などを装置に入れます。これを入れておくと、自動操縦はその経路に沿って飛びます。
ただし、入れたら終わりではありません。飛んでいる途中で管制から「この地点を経由してください」「高度を変えてください」と指示が来るたびに、人が入れ直します。空の道は、当日の混雑や天候で変わります。
2つめは、目の前のつまみとボタンです。
「高度3,000メートル」「方位270度」「速度250ノット」のように、その場で直接指示する使い方です。管制から短い間隔で指示が来る空港の周辺では、こちらを多く使います。
大事なのは、どちらの使い方でも、数字を決めているのは人だという点です。自動操縦は、入れられた数字を保つことしかしません。入れる数字を間違えれば、その間違った数字を正確に保ちます。
入れた瞬間から、仕事は「監視」に変わります
自動操縦を入れると、手は空きます。しかし、やることが増えます。機械が意図した通りに動いているかを確かめ続けるという仕事です。
具体的には、こういうことを見ています。
- 今どのモードで動いているか(高度を保っているのか、高度を変えている途中なのか)
- 入れた数字と、機体が実際に向かっている数字が合っているか
- 推力が想定の範囲にあるか
- 経路が、管制に許可された経路と合っているか
- 先の天気、先の燃料、目的地の状況
これは、座って眺めていれば済む作業ではありません。「次に何が起きるはずか」を頭の中で先に作っておいて、実際にそうなるかを照合するという作業です。予想していない動きが出たら、その時点で気づけます。予想を作っていなければ、気づくのが遅れます。
入力したら、表示を声に出して読み上げ、もう一人の操縦士と確かめる。二人で飛ぶ意味の一つは、こうした確認にあります。入れたつもりの数字と、実際に入っている数字が違うことは、起こりうるからです。
モードの取り違えが、いちばん危ない
自動操縦には、いくつもの動作モードがあります。同じ「高度を変える」動きでも、推力を一定にして機首の上下で高度を変えるモードと、機首の角度を一定にして推力で調整するモードでは、機体の振る舞いが違います。
怖いのは、人が思っているモードと、実際に動いているモードが違うときです。人は「この操作をすれば、こう動くはずだ」と予想しています。ところが機体は別のモードで動いている。予想と実際がずれたまま数十秒が過ぎると、速度が落ちすぎたり、高度が合わなくなったりします。
このため、操縦席の正面には、今どのモードで動いているかを文字で示す表示があります。速度・上下・左右の3系統について、現在のモードと、次に入る予定のモードが並んでいます。ここを見る習慣が、自動化された機体を飛ばすうえでの基本です。
自動操縦を使っていて問題になるのは、機械の故障よりも、人が機械の状態を取り違えることのほうが多いと言われています。だからこそ、監視という言葉が繰り返し出てくるのです。
自動操縦が自分から外れる場面
自動操縦は、いつでも働き続けるわけではありません。
外し方は2通りあります。1つは、人が意図的に切ること。着陸の手前で手動に切り替えるときなどがこれです。もう1つは、機体の側が条件から外れたと判断して、自動で外れることです。
強い乱気流に入って姿勢が大きく崩れたとき、速度が想定の範囲から外れたとき、必要な計器や信号が失われたときなどに、警報とともに外れることがあります。
ここが大事な点です。**自動操縦が外れるのは、いちばん状況が悪いときです。**穏やかな巡航中に突然切れることは、まずありません。切れるのは、揺れているとき、何かが壊れたとき、条件が崩れたときです。
つまりパイロットは、いつでも手で飛ばせる状態を保ったまま、自動操縦を使っている必要があります。自動操縦に頼りきって手の感覚が鈍ると、いちばん難しい場面で手動に戻ることになります。そのために、条件が良い日はあえて手で飛ばす時間を作りますし、訓練でも自動操縦を切った状態での操縦を繰り返します。
着陸まで自動でできる日と、できない日
「着陸も自動でできるのか」もよく聞かれます。できる場合があります。ただし、条件が揃った日だけです。
自動着陸をするには、少なくとも次の4つが同時に揃う必要があります。
- 機体:自動着陸ができる装備があり、その日きちんと働く状態にあること
- 空港:滑走路に精度の高い誘導電波の設備があり、その信号を乱さないよう地上の車や航空機の位置が制限されていること
- 乗員:その方式で降りる資格と訓練を持っていること
- 運航者の認可:会社として、その方式で降りることを認められていること
とくに2番が見落とされがちです。誘導電波は、滑走路の近くを車や別の航空機が通るだけで乱れます。ですから視界が悪い日は、地上の動きそのものを制限します。自動着陸は、機体だけの話ではなく、空港全体の運用とセットです。
そして、条件が揃っていても毎回自動で降りるわけではありません。晴れて視界の良い日に手で降りるのは、技量を保つためでもあります。「できる」と「毎回やる」は別の話です。
なお、自動着陸で降りたあとも、滑走路を出て駐機場まで移動するのは人の操作です。地上を走る部分は自動化されていません。
自動操縦がある方が、やることは増えます
ここまで書いてきた通り、自動操縦を入れると手は空きますが、仕事は減りません。
- 数字を決める
- 入力する
- 表示で確認する
- 相手の操縦士と読み合わせる
- 管制の指示が来るたびに入れ直す
- モードを確認する
- 先の天気と燃料を見直す
短い区間を飛ぶとき、管制の指示が細かく続く空港の周辺では、手で飛ばしたほうが速くて確実な場面もあります。装置に入れて確認してという手順を踏むより、そのまま操縦したほうが早いからです。
自動操縦の本当の価値は、「操縦から手を離せること」そのものではありません。手を離せることで、その時間を考えることに回せるという点にあります。長時間の洋上飛行で、目的地の天気が崩れてきたとき、どこへ降りるか、燃料はいくつまで持つか、乗客への案内はどうするか。こうした判断に頭を使うためには、舵を握り続けないで済む時間が要ります。
自動操縦は、パイロットの仕事を肩代わりする装置ではなく、パイロットが考える時間を作るための装置だと考えています。
おわりに
自動操縦が動かしているのは、操縦桿とスロットル、そして機種と場面によってはラダーまでです。ヨーダンパーは常に働いていますし、推力の左右差を自動で打ち消す機能を持つ機種もあります。自動着陸では、接地の直前から接地後まで機械がラダーと前輪を動かします。
一方で、どの経路を、どの高さで、どの速さで飛ぶかを決めているのは人です。入れた数字が正しいか、機械が意図通りに動いているかを確かめ続けるのも人です。そして自動操縦が外れるのは、たいてい状況が悪いときなので、いつでも手で飛ばせる状態を保っておく必要があります。
次に飛行機に乗ったとき、窓の外の翼の後ろ側を見てみてください。巡航中でも、小さな舵がわずかに動き続けているのが分かることがあります。自動操縦は、何もしていないのではなく、絶えず細かく修正を続けているのです。




