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軍事航空

戦闘機の「G」との戦い。体重が何倍にもなる世界で、意識を保つということ

おはようございます。

戦闘機の映画などで、パイロットが歯を食いしばって耐えている場面を見たことがあると思います。あれは演技ではなく、本当に体が押しつぶされそうな力と戦っています。今日は、私が戦闘機に乗っていたころの「G」との戦いの話をします。

「G」とは、体にかかる重さのこと

Gというのは、重力加速度のことです。ふだん地上で私たちが感じている重力を「1G」と呼びます。

戦闘機で急旋回したり、宙返りの底で機体を引き起こしたりすると、体には何倍もの力がかかります。9Gなら、自分の体重の9倍。60キロの人なら、540キロで座席に押しつけられる計算です。腕を上げることも、頭を起こすこともできなくなります。

これは旅客機ではまず経験しない世界です。旅客機ではお客様が快適でいられるよう、旋回はごくゆるやかに保ちます。戦闘機と旅客機の一番の違いは、実はこの「体にかける力」の大きさかもしれません。

いちばん怖いのは「意識を失うこと」

強いGがかかると、血液が下半身に引っぱられ、頭に血が届かなくなります。すると視野が狭くなり、色が失われ、やがて目の前が真っ暗になります。さらに続くと、意識そのものを失います。

これを「Gによる意識喪失(Gロック)」と呼びます。操縦中にこれが起きれば、命に関わります。機体の性能がどれだけ高くても、乗り手が意識を失えば飛ばせません。だから戦闘機のパイロットにとって、Gに耐えることは、操縦技術と同じくらい大事な基本でした。

強いGがかかると、血液が下半身に引っぱられ、頭に血が届きにくくなる様子を示した図。 強いG(下向き) 頭に血が届きにくい 血液が下半身へ
強いGがかかると血液が下半身へ引っぱられ、頭に血が届きにくくなります。これが意識を失う原因です。

意識を保つための、体の使い方

では、どうやって耐えるのか。根性論のようでいて、実はきちんとした技術があります。

  • 下半身に力を入れる:足やお腹の筋肉をぎゅっと締めて、血液が下へ落ちるのを防ぎます
  • 特別な呼吸法:息を細かく止めては吐き、胸の中の圧を高めて、頭へ血を押し戻します
  • 耐Gスーツ:脚とお腹を締めつける専用の装備。Gがかかると自動でふくらみ、血液の移動を抑えます

これらを組み合わせて、はじめて強いGの中でも意識を保てます。私も訓練で、視野が狭くなる感覚を経験しながら、この技術を身につけました。

旅客機に移って、変わったこと

今、私が操縦しているのは旅客機です。強いGとは無縁の、静かでなめらかな世界です。

けれども、G訓練で身についたことは、今も役に立っています。自分の体の状態を把握しておくこと、やるべきことを順番に続けること。これは戦闘機でも旅客機でも、同じように必要でした。

おわりに

戦闘機でGに耐えるのは、体力だけでなく、技術と準備が必要な作業でした。戦闘機の操縦も、中身は地道な訓練と自己管理の積み重ねです。それは旅客機でも変わりません。

地上でできる準備をひとつずつ済ませてから飛ぶ。それを、今も続けています。