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航空知識

飛行機が空で燃料を捨てることがあるのは、なぜか

おはようございます。

離陸してまもなく、機内で「当機は出発地へ引き返します。着陸の前に、しばらく上空を旋回します」と案内されることがあります。このとき上空で行っていることのひとつが、燃料投棄です。文字どおり、積んでいる燃料を空中で捨てています。

燃料は安いものではありませんし、捨てると聞くと心配になる方もいると思います。今日は、なぜそんなことをするのか、どうやって行うのかを説明します。

離陸できる重さと、着陸できる重さは違います

旅客機には、重さの上限がいくつも決められています。そのうち大事なのが、次の2つです。

  • 最大離陸重量:離陸するときに許される重さの上限
  • 最大着陸重量:着陸するときに許される重さの上限

この2つは同じではありません。着陸できる重さのほうが、かなり軽く決められています。

理由は、着陸のときに機体にかかる力です。着陸では、脚が機体の重さを受け止め、ブレーキで止めます。重いほど脚への衝撃は大きく、止まるまでの距離も長くなります。そのため、着陸の上限は離陸より低く設定されています。

普段は、この差が問題になることはありません。長い距離を飛ぶあいだに燃料を使い、目的地に着くころには機体が軽くなっているからです。長距離便では、積んだ燃料の重さが機体全体の重さのかなりの部分を占めます。何時間も飛べば、そのぶん軽くなります。

機体の重さの変化(長距離便のイメージ) 重い 軽い 飛行時間 → 最大離陸重量 最大着陸重量 通常:燃料を使って軽くなり着陸 離陸直後に引き返す 最大着陸重量を超えたまま
普段は飛んでいるうちに燃料を使って軽くなります。離陸直後の引き返しでは、その時間がありません。

問題になるのは、離陸してすぐ戻るときです

困るのは、出発してすぐに引き返さなければならなくなったときです。たとえば、機内で急病の方が出た、機体に不具合の表示が出た、といった場合です。

このとき機体は、離陸したときとほとんど同じ重さのままです。燃料を使う時間がなかったので、着陸できる重さを大きく超えています。

選べる方法は、主に次の3つです。

  1. 上空で燃料を捨てて、着陸できる重さまで軽くする
  2. 上空で時間をかけて飛び、燃料を使って軽くする
  3. 重さを超えたまま着陸する

どれを選ぶかは、状況の急ぎ具合で決まります。急病の方の容体が重ければ、時間をかけてはいられません。一方で、急ぐ必要がそれほどない不具合なら、落ち着いて重さを減らしてから降りるほうが安全です。

燃料投棄は、決められた手順で行います

燃料を捨てる装置がついている機体では、主翼の端のほうにある放出口から燃料を出します。操縦席で、捨てたあとに残す燃料の量を決めて作動させると、その量になったところで止まる仕組みです。残りが少なくなりすぎないよう、機体の側でも止まるようになっています。

捨てる場所と高さも考えます。管制官と調整し、できるだけ高い高度で、住宅地の上を避けた空域で行います。高い場所で放出された燃料は細かい霧状になり、地上に届く前にほとんどが蒸発します。

投棄には、それなりに時間がかかります。量によっては数十分になります。機内で「しばらく旋回します」とお伝えするのは、このためです。窓から主翼の後ろに白い筋が見えることがありますが、それが放出されている燃料です。

そもそも、燃料を捨てられない機体も多くあります

意外に思われるかもしれませんが、燃料を捨てる装置は、すべての旅客機についているわけではありません。

装置がついているのは、主に長距離を飛ぶ大きな機体です。国内線などで多く使われている小型の機体は、もともと積む燃料の量が少ないため、離陸と着陸の重さの差が小さく、装置を持たない機種が多くあります。

装置をつければよいのでは、と思われるかもしれません。ただ、配管やポンプ、放出口を加えると、そのぶん機体が重くなり、整備する部品も増えます。使う機会がほとんどない装置のために、毎日の飛行で重さを運び続けることになります。そのため、必要性の低い機体にはつけない、という設計になっています。

では、そうした機体が離陸直後に引き返す必要が出たらどうするのか。

  • 時間に余裕があれば、上空を飛んで燃料を使い、重さを減らします
  • 急ぐ必要があれば、重さを超えたまま着陸します

重さを超えての着陸は、禁止されているわけではありません。機体はそれに耐えられる強さを持って作られていますし、そのときの手順も決まっています。できるだけ静かに接地するように降ります。そのうえで、着陸後に整備士が脚や機体の構造を点検します。点検で問題がないことを確認できるまで、その機体は次の便に使えません。

離陸直後に引き返すときの考え方 すぐに降りる必要があるか 急ぐ 余裕がある 重さを超えたまま着陸 できるだけ静かに接地 着陸後に脚と機体を点検 重さを減らしてから着陸 装置があれば燃料投棄 なければ上空で燃料を使う
どの方法を選ぶかは、急ぎ具合と機体の装備で決まります。

燃料を捨てる判断は、軽く行うものではありません

燃料投棄には費用がかかりますし、環境への影響もあります。捨てた燃料の分だけ、次に飛ぶときには積み直さなければなりません。ですから、捨てずに済むならそのほうが良いのは確かです。

それでも捨てるのは、重すぎる状態で着陸するより安全に降りられると判断したときです。燃料の値段より、安全に止まれることのほうが優先されます。判断は機長が行い、会社の運航管理の担当者や管制官とも連絡を取りながら進めます。

おわりに

旅客機は、離陸できる重さより着陸できる重さのほうが軽く決められています。普段は飛んでいるうちに燃料を使って軽くなりますが、離陸直後に引き返すと、その時間がありません。

そのときの方法は、燃料投棄、上空で燃料を使う、重さを超えたまま着陸して点検する、の3つです。どれを選ぶかは、急ぎ具合と機体の装備で決まります。

もし引き返しの案内のあとに旋回が続いたら、着陸に向けて重さを調整している時間だと考えていただいて差し支えありません。