高度計は何メートルを指しているのか。気圧高度とQNHの話

おはようございます。
フライトシミュレーターを始めた方から、よくいただく質問があります。「管制に指定された高度に合わせたはずなのに、表示がずれている気がする」「離陸前に高度計がゼロを指していない」というものです。
これは操作の失敗ではありません。高度計というものの仕組みが、多くの方の想像と違うために起こります。
今日は、高度計が実際に何を測っているのか、なぜ基準を合わせる必要があるのかを説明します。実機の話ですが、そのままシミュレーターにも当てはまります。
高度計は、実は気圧計です
先に結論を書きます。高度計は、高さを直接測っていません。
測っているのは気圧です。そして「この気圧なら、だいたいこのくらいの高さだろう」という換算をして、高さとして表示しています。
なぜそうなるのか。空気には重さがあります。地面の近くには上に乗っている空気の量が多いので、気圧が高い。高く上がるほど上に乗っている空気が減るので、気圧が下がります。この「高さが上がると気圧が下がる」という関係を使って、気圧から高さを逆算しているのです。
高さを測る方法として、ほかに電波を地面に向けて跳ね返らせる方式もあります。電波高度計と呼ばれ、地面までの実際の距離を測ります。ただし測れる範囲は地面のすぐ近く、数百メートルまでに限られます。着陸のときに「フィフティ、フォーティ、サーティ」と数える音声は、この電波高度計の数字です。
巡航中や上昇降下中に使っているのは、気圧から換算しているほうの高度計です。ここから先は、そちらの話になります。
気圧は日によって変わる。だから基準を合わせます
ここで問題が出ます。気圧は、その日の天気によって変わるのです。
高気圧に覆われた晴れた日と、低気圧が近づいている日とでは、同じ場所の同じ高さにいても、気圧が違います。気圧から高さを逆算している以上、基準を決めておかないと、同じ気圧の数字が日によって別の高さを意味してしまいます。
そこで高度計には、基準となる気圧を入力するつまみがついています。ここに何を入れるかで、高度計の指す数字の意味が変わります。
入れ方は、大きく2種類あります。
QNH:低い高度では、海面を基準に合わせます
1つめがQNHです。
QNHとは、その地域の気圧を、海面の高さに換算した値のことです。これを高度計に入れると、高度計は「海面からの高さ」を指すようになります。
確かめ方は簡単です。空港で駐機しているときに正しいQNHを入れると、**高度計はその空港の標高を指します。**成田空港の駐機場なら、ゼロではなく40メートル前後を指します。標高0メートルの空港でなければ、ゼロにはなりません。
シミュレーターで「離陸前に高度計がゼロを指していない」と感じるのは、多くの場合これが理由です。故障でも設定ミスでもなく、その空港の標高を正しく指しているのです。
QNHの値は、管制から数字で伝えられます。日本ではヘクトパスカル(hPa)、アメリカでは水銀柱インチ(inHg)を使います。天気予報で聞く1013ヘクトパスカルという数字と同じ単位です。
低い高度でQNHを使う理由は、はっきりしています。地面や山にぶつからないためです。低いところでは、海面からの本当の高さが分かっていないと困ります。空港の標高、周囲の山の高さ、進入の経路はすべて海面基準で書かれているので、高度計も海面基準に合わせておく必要があります。
標準気圧:高いところでは、全員が同じ基準に揃えます
2つめが標準気圧です。
ある高度より上では、全機が同じ基準に揃えます。その基準が、**1013.25ヘクトパスカル(29.92水銀柱インチ)**です。国際標準大気と呼ばれる、架空の基準の大気で決められた海面気圧の値です。
この基準にしたときの高度を、フライトレベルと呼びます。「フライトレベル350」といえば、標準気圧を基準にした35,000フィートのことです。
なぜ高いところでは、わざわざ実際とは違う基準に揃えるのか。理由は、互いの間隔を保つためです。
高いところを飛ぶ飛行機は、あちこちから来ています。東京の気圧、大阪の気圧、太平洋上の気圧はそれぞれ違います。もし各機が自分の近くのQNHを入れていたら、同じ「10,000メートル」と言っても、機体ごとに別の高さを飛ぶことになります。上下の間隔が保てません。
そこで、高いところでは全機が同じ架空の基準に揃えます。そうすれば、実際の高さが多少ずれていても、機体どうしの上下の間隔は正確に保たれます。地面が遠い高度では、地面までの正確な高さより、機体どうしの間隔のほうが大事だからです。
切り替える高さは、決まっています
では、どこで切り替えるのか。ここには決まった高さがあります。
上昇していくときに標準気圧へ切り替える高さを、トランジション・アルティチュードと呼びます。日本では14,000フィートです。国によって違い、アメリカでは18,000フィート、ヨーロッパでは空港ごとに異なり、3,000フィートから6,000フィート程度と低めに設定されている場所もあります。
降りてくるときにQNHへ戻す高さは、トランジション・レベルと呼ばれます。こちらはその日の気圧によって変わります。
実際の操作は、こうなります。
- 上昇中:14,000フィートを通過するとき、つまみを回して標準気圧にする。そこから先の表示は「フライトレベル」で読む
- 降下中:管制から指定されたトランジション・レベルを通過するとき、その空港のQNHを入れる。そこから先は海面からの高さで読む
この切り替えは、声に出して確認します。片方の操縦士が変更し、もう片方が数字を確認する。忘れると、そのまま飛んでしまうからです。
合わせ忘れると、どれだけずれるか
具体的な数字があると、感覚がつかみやすくなります。
気圧が1ヘクトパスカル違うと、高度計の表示は約27フィート、およそ8メートルずれます。
たとえば、標準気圧の1013を入れたまま、実際のQNHが983ヘクトパスカルの空港へ降りていったとします。差は30ヘクトパスカルです。
30 × 27 = 810フィート。およそ250メートルです。
このとき高度計は、実際より810フィート高い数字を表示します。パイロットが「2,000フィートにいる」と思っているとき、機体は実際には1,190フィートにいることになります。山や地面との余裕が、250メートル分削られている状態です。
覚え方として、「高いほうから低いほうへ飛ぶときは、下に注意」と言われます。気圧の高い地域から低い地域へ移動したのに基準を直さないと、機体は思っているより低く飛ぶことになるからです。
逆はどうか。低いほうから高いほうへ移動して直さなければ、機体は思っているより高く飛びます。地面との関係では安全側ですが、上下の間隔という意味では別の問題を生みます。
気温でも、実はずれています
もう一つ、あまり知られていない話を書いておきます。気温が低い日も、高度計は実際より高い数字を示します。
理由は、高度計が国際標準大気を前提に換算しているからです。標準大気では、海面の気温を15度としています。実際の気温がそれより低いと、空気は縮んでいます。同じ気圧の面が、標準より低い位置にあることになります。
つまり、真冬の寒い空港では、高度計が2,000フィートを指していても、実際の高さはそれより低いのです。QNHを正しく入れていても、このずれは残ります。
このため、とくに寒い地域の空港では、進入の高度に補正を加える手順が定められています。日本でも冬の北海道などで関係してきます。
シミュレーターでも、気温を実際の気象に合わせて飛んでいる場合は、この現象が再現されます。
フライトシミュレーターでの合わせ方
ここまでの話を、シミュレーターでどう操作するかに落とします。
キーボードで合わせる場合
多くのタイトルで、Bキーを押すと高度計の基準がその場の気圧に自動で合います。地上で押せばQNHが入り、高度計はその空港の標高を指します。
ただし、Bキーは機種やタイトルによって挙動が違います。標準気圧に切り替わってしまう場合もあるので、押したあとに表示される数字を必ず確認してください。
手で合わせる場合
実機と同じように、計器の脇にある気圧設定つまみをマウスで回します。数字はPFDの高度計の下あたりに表示されます。管制からQNHを言われたら、その数字に合わせます。
単位の切り替え
ヘクトパスカルと水銀柱インチは、機種によって切り替えられます。日本の空港を飛ぶならヘクトパスカル、アメリカなら水銀柱インチに合わせておくと、管制の数字をそのまま入れられます。
STD(標準気圧)への切り替え
エアバス系の機体では、つまみを引くとSTDに切り替わり、押すとQNH入力に戻ります。ボーイング系ではSTDのボタンがあります。14,000フィート(日本の場合)で切り替える、という手順をそのまま再現できます。
計器そのものの読み方は、PFDの基本の記事で書きました。進入のしかたはILS進入の記事が参考になります。
おわりに
高度計は高さを測っておらず、気圧を測って高さに読み替えています。そのため、基準となる気圧を入れなければ意味のある数字になりません。
低い高度では、その地域のQNHを入れて海面からの高さを見ます。地面や山との余裕を測るためです。高い高度では、全機が標準気圧に揃えます。互いの間隔を正確に保つためです。日本では14,000フィートで切り替えます。
基準を1ヘクトパスカル間違えると、約27フィートずれます。気圧の低い地域へ飛んだのに直さなければ、機体は思っているより低いところを飛ぶことになります。
シミュレーターで空港に着いたとき、高度計がゼロを指していなくても壊れてはいません。その空港の標高を、正しく指しています。




