目的地に降りられないとき、行き先はどうやって決まるのか

おはようございます。
「天候不良のため、当機は〇〇空港へ向かいます」という案内を聞いたことがあるかもしれません。目的地ではない空港に降りることを、ダイバートと呼びます。
行き先を空の上で探しているように思われるかもしれませんが、そうではありません。今日は、その決まり方を説明します。
代替空港は、出発前に決めてあります
出発前の飛行計画には、目的地のほかに代替空港が書かれています。目的地に降りられなかったときに向かう空港です。
降りられない理由はいくつもあります。天候が悪い、事故や故障で滑走路が閉鎖された、混雑で待っているうちに燃料が足りなくなりそう、といった場合です。
代替空港は、次のような条件で選びます。
- 到着するころの天気が、基準より良いと予報されていること
- 機体の大きさに見合う滑走路と設備があること
- 目的地から遠すぎないこと。ただし、同じ天気に巻き込まれない程度には離れていること
- その時間に開いていること(空港には運用時間があります)
目的地と代替空港が近すぎると、同じ前線や台風でどちらも使えなくなります。離れすぎれば燃料が増えます。この兼ね合いで決めます。
燃料は、この代替空港まで飛べる量を含めて積みます。考え方は燃料の記事で書きました。
空の上では、3つを見ています
目的地が近づいたら、降りられるかを判断します。見ているのは主に3つです。
- 目的地の今の天気と予報:風、視程、雲の底の高さ。進入の方式ごとに「ここまでなら降りられる」という基準が決まっています
- 残りの燃料:あとどれだけ待てるか。待てる時間は燃料で決まります
- 代替空港の状態:そちらの天気は保っているか。閉まる時間は近くないか
天候が回復しそうなら、上空で待ちます。待ち方はホールディングの記事で書きました。ただし、待てる時間には限りがあります。
決めるのは機長です。そのとき、会社の運航管理の担当者と無線や通信で連絡を取り、空港の混み具合、他の便の状況、受け入れの態勢といった情報をもらいます。空港側にも受け入れの能力があり、同じ時間に多くの便が向かえば、断られることもあります。
どんなときに向かうのか
ダイバートの理由は、天候だけではありません。実際には次のような場合があります。
- 目的地の天気が基準を下回った:霧、強い横風、積乱雲の通過など
- 滑走路が使えなくなった:事故、点検、除雪、他機の故障による閉鎖
- 混雑で待ちきれない:上空で待つうちに、代替空港へ向かう燃料の線に近づいた
- 機内で急病の方が出た:医療機関が近い空港のほうが早く引き渡せる場合
- 機体に不具合が出た:近くの空港に早く降りたほうがよいと判断した場合
急病や不具合の場合は、距離だけでなく、受け入れの態勢と滑走路の長さを見て選びます。近くても、その機体が降りられない空港は候補になりません。
「行けるところまで行く」はしません
燃料が減ってから考える、という進め方はしません。
代替空港まで飛べる燃料を残した状態で判断するのが原則です。その線を割り込みそうになる前に、待つのをやめて代替空港へ向かいます。粘るほど選択肢が減るためです。
どうしても燃料に余裕がなくなる見込みのときは、管制にその状態を伝えます。伝え方は決まっていて、着陸の順番で優先してもらえます。言い出しにくいことではなく、早く伝えるほど安全に降りられます。
降りたあと
代替空港に着いたあとは、天候の回復を待って目的地へ向かうか、その空港で運航を終えるかに分かれます。
決め手になるのは天候だけではありません。乗務員の勤務時間の上限、空港の運用時間、受け入れの態勢、燃料の補給が受けられるかといった条件が絡みます。勤務時間の上限は別の記事に書きました。
お客様の移動や宿泊の手配は、地上の部門が進めます。機内では、分かっている範囲を早めにお伝えするようにしています。見通しが立たない時間が長いほど、不安が大きくなるためです。
代替空港を示さずに飛べる場合もあります
飛行計画には必ず代替空港を書くもの、と思われるかもしれませんが、例外もあります。
目的地の天気が到着予定時刻の前後にわたって十分よく、滑走路が複数あるなど条件を満たす場合、代替空港を示さずに飛行計画を出せることがあります。条件は法令で決められていて、会社の規程にも書かれています。
ただし、その場合でも余裕の燃料は積みます。条件を満たしていても、天気は変わるからです。実際には、少しでも崩れる予報があれば代替空港を取っておくほうが普通です。
迂回とダイバートは違います
よく混同されるものに、経路の迂回があります。積乱雲や乱気流を避けて進路を少し変えることで、行き先は変わりません。
一方でダイバートは、降りる空港そのものを変えることです。機内の案内で「経路を変更します」と「行き先を変更します」が区別されているのは、このためです。
おわりに
目的地に降りられないときの行き先は、出発前に決めた代替空港です。そこまで飛べる燃料を積んで出発し、空の上では天気と燃料と代替空港の状態を見比べて、待つか向かうかを判断します。
ダイバートは、計画が崩れた結果ではなく、計画の一部です。案内を聞いたときは、用意していた手順が動いているところだと受け取っていただければと思います。




