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軍事航空

戦闘機の射出座席は、どうやってパイロットを機外へ出すのか

おはようございます。

戦闘機の操縦席には、旅客機にはない装置があります。射出座席です。機体をどうしても立て直せなくなったとき、座席ごとパイロットを機体の外へ打ち出す装置です。

映画で見たことがある方も多いと思います。今日は、ハンドルを引いてからパラシュートが開くまでの短い時間に、座席が何をしているのかを説明します。なお、ここで書くのは公開されている一般的な仕組みで、特定の部隊の運用には触れません。

ハンドルを引いてからの流れ

射出座席の動きは、おおまかに次の順番で進みます。すべて自動で、パイロットがするのは最初にハンドルを引くことだけです。

  1. キャノピーを外す:頭の上を覆う透明な風防を、火薬の力で外します。F-15の座席は、頭の上に風防を突き破るための突起がついています。万一キャノピーが外れなくても、そのまま突き抜けて出られるようにするためです
  2. 座席を押し出す:座席の後ろにある筒の中で火薬が燃え、座席がレールに沿って押し上げられます
  3. ロケットで離れる:この筒はロケットと一体になっていて、座席がレールを離れるころにロケットが燃え、さらに上へ持ち上げます。垂直尾翼にぶつからない高さまで、一気に離れるためです
  4. 座席から離れて、パラシュートが開く:座席とパイロットが切り離され、パラシュートが開きます。座席は落ちていき、パイロットはパラシュートで降ります

ここまでにかかる時間は、長くても数秒です。

ハンドルを引いてからの流れ ① ハンドルを 引く ② キャノピーを 外す・割る ③ 火薬で座席を 押し出す ④ ロケットで 機体から離れる ⑤ 座席と離れ 傘が開く 0秒 数秒 パイロットの操作は①だけ。あとは座席が自動で進めます
射出はハンドルを引いたあと、すべて自動で進みます。

高さや速さに合わせて、座席が判断します

射出する状況は毎回違います。低い高度でゆっくり飛んでいるときもあれば、高い高度を速く飛んでいるときもあります。

そこで座席は、自分で空気の圧力を測って状況を判断します。私が乗っていたF-15の座席は、米国のF-15と同じACES II(エーシズ・ツー)という型です。この座席では、頭の横に空気の勢いを測る小さな管があり、背もたれの後ろには周りの気圧を測るセンサーがあります。この2つから、今の速さと高さを割り出し、3つの動き方を使い分けます。

  • 低い高度で、速さがおおよそ250ノット(時速約460km)まで:減速用の小さな傘を出さず、すぐに主傘を出します。射出からおよそ2秒以内に、パラシュートが開き始めます
  • それより速いとき:先に小さな減速用の傘を出して、座席とパイロットを減速させ、姿勢を落ち着かせます。主傘を出すのはそのあとです。速いまま主傘を開くと、傘も体も風の力に耐えられないためです
  • 高い高度(およそ1万5,000フィート以上)のとき:すぐには座席から離れず、減速用の傘で降りていきます。座席には非常用の酸素ボンベがついていて、座席から離れると酸素も切れてしまうためです。息ができる高さまで下りてから、主傘を開きます

どの動き方にするかは、パイロットが選ぶのではありません。座席が射出の瞬間に決めます。

2人乗りの機体では、2つの座席が同時に出るとぶつかるおそれがあります。そのため、一方の座席が先に出て、少し間を空けてもう一方が出るように、順番とわずかな時間差が決められています。

地上で止まっていても使える「ゼロ・ゼロ」

地上で止まった状態からでも使える座席があります。高度ゼロ・速度ゼロでも安全に降りられるという意味で、「ゼロ・ゼロ」と呼ばれます。

私が乗っていたF-15の座席も、このゼロ・ゼロで使える座席でした。滑走路の上で止まった状態から射出しても、ロケットの力で座席を高く持ち上げ、パラシュートが開くまでの高さと時間を確保します。公開されている資料では、体重の軽い人なら60メートル近くまで上がるとされています。

ただし、ゼロ・ゼロは「機体が水平なとき」の話です。機体が大きく傾いていたり、地面に向かって降下していたりすれば、座席は斜めや下向きに打ち出されます。資料では、地面の高さで機体が60度傾いている場合、安全に脱出するには120ノットほどの速さが必要とされています。どんな姿勢からでも助かる、というわけではありません。

ジャイロで、座席の回転を抑える

F-15の座席には、もうひとつ特徴があります。ジャイロが積まれていて、射出したあとの座席の姿勢を安定させる仕組みがついていることです。

なぜ必要なのか。ロケットは、座席とパイロットをまとめて押し上げます。このとき、ロケットの押す向きと、座席とパイロットを合わせた重さの中心がずれていると、押し上げながら座席が前や後ろへ回ろうとします。重さの中心は、パイロットの体格や装備によって一人ひとり違います。ですから、ずれが出るのは避けられません。

座席が回ってしまうと、ロケットの力が上ではなく斜めへ向きます。地面に近いところでは、それだけで十分な高さを取れなくなります。

そこで座席の底の後ろ寄りに、小さな姿勢制御用のロケットがついています。ジャイロが座席の前後の回転を感じ取り、このロケットの向きを傾けて、回転を打ち消す力を出します。

この仕組みが抑えるのは、前後の回転です。射出の瞬間に機体が左右に傾いていた場合、座席が打ち出される向きそのものを水平に戻すわけではありません。

体には、強い力がかかります

射出の瞬間、体には大きな加速がかかります。公開されている資料では、座席を押し出すときの加速は、最大で体重の約12倍とされています。それが、ごく短い時間に一気にかかります。

いちばん負担がかかるのは背骨です。上へ押し上げられるので、背骨が縦に圧縮されます。昔の座席では背中を痛めることが多くありましたが、座席の改良によって、そうしたけがの割合は大きく下がったとされています。

それでも、姿勢が崩れていると、けがのおそれが高くなります。背中を背もたれにつける、あごを引く、腕や脚を体に寄せる。射出の訓練では、この姿勢を体に覚えさせます。

座席には、降りたあとに使う道具も入っています。座面の下には、無線機や応急用品などを詰めた生存用の装備が収められていて、座席から離れるときにパイロットと一緒に持ち出されます。

迷わないために、先に決めておきます

射出座席でいちばん難しいのは、仕組みではなく、ハンドルを引く判断だといわれます。機体を立て直そうと粘るほど、高度が下がり、座席が安全に働く条件から外れていくからです。

そこで、どの高さまで下がったら立て直しをやめて脱出するか、という目安を飛ぶ前に決めておく考え方がとられています。その場で考えるのではなく、決めてある線を越えたら引く。判断を前もって済ませておくことで、迷う時間をなくします。

地上では、誤って作動しないように管理します

火薬とロケットを積んだ装置ですから、地上での扱いは厳重です。

整備中や駐機中は、座席やキャノピーの作動部分に安全ピンを差し込んで、動かないようにしてあります。赤いリボンがついたピンです。飛行前にパイロットと整備員がこれを外し、外した本数を確認します。飛行後は、また差し込みます。

射出座席の火薬には使用期限があり、決められた時期に交換されます。

旅客機に、射出座席がない理由

「旅客機にもつければいいのでは」と聞かれることがあります。つかない理由は、はっきりしています。

まず、乗っている全員を外へ出すことができません。操縦席の2人だけが脱出する装置は、旅客機の考え方と合いません。旅客機は、機体を安全に地上へ降ろし、全員で脱出することを前提に作られています。

次に、機体の構造です。射出座席を使うには、座席の上を開けられる構造と、打ち出すための仕組みが要ります。与圧された大きな胴体の旅客機には、そうした構造を持たせる理由がありません。

そのかわり旅客機は、エンジンが1つ止まっても飛べる設計や、システムを二重三重に持つ設計で、「降りられない状態にならない」ことを重視しています。

おわりに

射出座席は、ハンドルを引いてから数秒のあいだに、キャノピーを外し、座席を押し出し、ロケットで機体から離れ、パラシュートを開きます。座席は自分で速さと高さを測り、パラシュートを開くまでの動き方を変えます。私が乗っていたF-15の座席は、地上で止まった状態からでも使え、ジャイロで前後の回転を抑える仕組みも備えていました。

体には強い力がかかるため、座る姿勢まで訓練します。旅客機にないのは、全員を外へ出す装置にならないためで、旅客機は機体を安全に降ろすことを前提に作られています。