飛行機はどうやって曲がるのか。3つの舵の役割

おはようございます。
飛行機はどうやって曲がるのか。この質問をすると、「ハンドルのようなものを回すのでは」と答える方が多くいます。操縦席には確かに輪のような操縦桿がありますが、あれを回しても飛行機は曲がりません。傾くだけです。
今日は、飛行機がどの舵でどう動くのか、そしてなぜ機体を傾けなければ曲がれないのかを説明します。
飛行機は、3つの軸で動きます
まず整理から始めます。飛行機の動きは、機体を貫く3本の軸まわりの回転として表せます。
- ピッチ:機首が上がる、下がる。機体を左右に貫く軸まわりの回転
- ロール:右の翼が下がる、左の翼が下がる。機首から尾部へ貫く軸まわりの回転
- ヨー:機首が右を向く、左を向く。上下に貫く軸まわりの回転
そして、この3つにそれぞれ対応する舵があります。
- ピッチ → エレベーター(水平尾翼の後ろ側)
- ロール → エルロン(主翼の外側後方)
- ヨー → ラダー(垂直尾翼の後ろ側)
操縦桿を前後に動かすとエレベーター、左右に回すとエルロン、足元のペダルを踏むとラダーが動きます。
曲がるときは、まず機体を傾けます
さて本題です。飛行機はどうやって曲がるのか。
翼は、上向きの力を出しています。揚力です。飛行機が水平に飛んでいるとき、この力は真上に向いていて、機体の重さと釣り合っています。
ここで機体を右に傾けると、翼も一緒に傾きます。すると揚力の向きも一緒に傾きます。真上だった力が、斜め上を向く。
斜めを向いた力は、2つに分けて考えられます。上向きの成分と、横向きの成分です。この横向きの成分が、機体を右へ引っ張ります。これが、飛行機が曲がる仕組みです。
自転車でカーブを曲がるとき、体を内側に倒すのと同じです。ハンドルを切るから曲がるのではなく、傾けるから曲がる。飛行機も同じです。
エルロン:傾けるための舵
機体を傾けるのが、エルロンです。主翼の外側、後ろ側についています。
エルロンは、左右で逆向きに動きます。右に傾けたいときは、右翼のエルロンが上がり、左翼のエルロンが下がります。上がった側は揚力が減って翼が下がり、下がった側は揚力が増して翼が上がる。その差で機体が傾きます。
旅客機では、エルロンだけでなくスポイラーも傾けるのを助けます。主翼の上面にある板で、立ち上げると揚力を減らします。傾けたい側のスポイラーを少し立てることで、より確実に傾けられます。離陸や着陸のときに翼の上の板がばたばた動いているのを見たことがあれば、その一部はこの働きです。
エレベーター:機首の上下と、旋回中の高度の維持
エレベーターは、水平尾翼の後ろ側にあります。操縦桿を引くと機首が上がり、押すと下がります。
ここで、旋回と結びつく大事な話があります。
先ほど、傾けると揚力が斜めを向き、上向きの成分と横向きの成分に分かれると書きました。ということは、上向きの成分は、水平飛行のときより小さくなっています。重さと釣り合わなくなるので、そのままでは機体が沈みます。
ですから、旋回するときは操縦桿を少し引いて、揚力そのものを増やします。そうすることで、傾けても上向きの成分が重さと釣り合い、高度を保ったまま曲がれます。
揚力を増やすと空気の抵抗も増えるので、速度を保つには推力も少し足します。つまり旋回とは、傾けて、引いて、推力を足す、という3つを同時にやる操作です。自動操縦はこれを黙ってやってくれています。
ラダー:曲がるための舵ではありません
さて、ここが今日いちばんお伝えしたい部分です。
足元のペダルで動かすラダーは、機首を左右に向けます。名前も「舵」ですし、船の舵を想像すると、これで曲がるように思えます。
しかし、旅客機ではラダーで曲がりません。
ラダーを踏むと、機首は確かにその方向を向きます。しかし機体は、機首の向いた方向へは進みません。斜めを向いたまま、ほぼ元の方向へ滑っていきます。車が凍った路面で横滑りするような状態です。乗っている人は横に振られ、乗り心地も悪くなります。
では、ラダーは何のためにあるのか。主な使い道は2つです。
1つめは、横風での着陸です。
横風の中では、機体は風上に少し機首を向けた姿勢で滑走路へ近づきます。そのまま接地すると脚に横向きの力がかかるので、接地の直前にラダーを踏んで機首を滑走路の向きに合わせます。この話は横風着陸の記事で詳しく書きました。
2つめは、推力に左右差が出たときです。
双発機で片方のエンジンが止まると、残った側の推力だけが働き、機首が止まった側へ振られます。これを止めるため、反対側にラダーを当てます。片発での飛行では、ラダーは必須の舵です。
なお、旅客機のラダーは、高い速度で強く踏めば垂直尾翼に大きな力がかかります。このため、速度に応じて舵の効き自体を制限する仕組みが入っている機種が多く、使い方も限定されています。「曲がりたいから踏む」ものではない、というのはこういう意味でもあります。
ただし、ラダーを人が全部踏むわけでもありません
ここも誤解が多いところなので、補足しておきます。「操縦桿は自動操縦、ラダーは人」という線引きは成り立ちません。
- ヨーダンパー:後退翼のジェット機は、放っておくと機首の振れと傾きが組み合わさった揺れを起こします。これを抑えるため、飛行中ほぼ常時、ラダーが自動で小刻みに当たり続けています
- 推力の左右差の自動補正:近年の機種には、推力差を検知して自動でラダーを当てる機能があります。私が乗っているボーイング787にはTAC(推力非対称補償)という機能があり、エンジンの推力に差が出ると機体が自分でラダーを当てます
- 自動着陸:接地直前の機首向き合わせと、接地後に滑走路の中心線を保つ動きは、機械がラダーと前輪を動かしています
つまり、ラダーは「人が踏むもの」でも「機械が動かすもの」でもなく、場面と機種によって分担が変わる舵です。詳しくは自動操縦の記事で書きました。
傾ける角度には、決まりがあります
旅客機が普段の飛行で機体を傾ける角度は、25度前後です。大きくても30度を超えることは、通常の運航ではまずありません。
理由は2つあります。
1つは、乗り心地です。傾けるほど、上向きの成分を保つために引く量が増え、体にかかる力が大きくなります。25度なら、座っている方はほとんど気づきません。
もう1つは、余裕を残すためです。大きく傾けるほど、揚力を増やすために翼に無理をさせることになり、速度に対する余裕が減ります。とくに高い高度では、速度の余裕がもともと小さいので、傾ける角度も控えめにします。
自動操縦を使っているときも、傾ける角度には上限が設定されています。高度が高いほど、上限は小さくなります。
フライ・バイ・ワイヤで変わったこと
昔の機体では、操縦桿とワイヤーやロッドが機械的につながっていて、動かした量がそのまま舵の動きになっていました。
近年の機体は違います。操縦桿の動きはまず電気信号になり、計算機がそれを受け取って、舵をどれだけ動かすかを決めます。フライ・バイ・ワイヤと呼ばれる方式です。
これによって変わったことがあります。
- 操作が「量」ではなく「要求」になった:エアバス系では、操縦桿を倒す量は「どれくらいの速さで傾けたいか」を伝える意味になります。手を離せば、その傾きのまま保たれます
- 決められた範囲から出ないようにできる:傾けすぎ、機首を上げすぎ、速度を落としすぎといった状態に入らないよう、計算機が介入します。どこまで介入するかの考え方はメーカーによって違い、その違いはエアバスとボーイングの操縦席の記事で書きました
- 操作と機体の反応の間に、計算機が入った:だからこそ、機械が今どういう状態で動いているのかを人が把握しておく必要があります
舵そのものの役割は、フライ・バイ・ワイヤでも変わりません。変わったのは、人の操作がどう舵に伝わるかの部分です。
おわりに
飛行機は、ピッチ・ロール・ヨーの3つの軸で動きます。エレベーターが機首の上下、エルロンが左右の傾き、ラダーが機首の向きを担当します。
曲がるときは、まずエルロンで機体を傾けます。すると翼の出す上向きの力が斜めを向き、その横向きの成分が機体を曲げます。同時に高度を保つため操縦桿を引き、速度を保つため推力を足します。
ラダーは、曲がるための舵ではありません。主に使うのは横風の着陸と、推力に左右差が出たときです。そして近年の機種では、そのラダーも場面によっては機械が動かしています。
次に窓側の席に座ったら、離陸直後の旋回で翼を見てみてください。機体が傾き、同時に少し沈み込むような感覚があれば、それはパイロットが操縦桿を引いて、上向きの力を足している瞬間です。




