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航空知識

エンジンが1つ止まっても飛べるのか。双発機とETOPSの話

おはようございます。

「太平洋をエンジン2つの飛行機で渡るのは怖くないですか」というご質問をいただきました。

かつて長距離路線は4発機が主役でしたが、いまは双発機がほとんどです。今日は、その理由をお話しします。

1つ止まっても飛べることが、設計の前提です

まず前提として、双発機はエンジンが1つ止まった状態で飛べるように作られています。「たまたま飛べる」のではなく、それができることを証明しないと型式の承認が下りません

離陸のときも同じです。滑走を始めてから、ある速度を超えたあとにエンジンが1つ止まった場合、残りの1つで加速して浮き上がり、障害物を越えて上昇できることが求められます。この性能が出せる範囲でしか、私たちは重量を積めません。

つまり、エンジンが1つ止まる事態は「起きたら終わり」ではなく、「起きても続けられるように準備してある」事態です。

ただし、同じ高さでは飛べません

とはいえ、力が半分になれば無理はできません。

エンジンが1つになると、それまでの高度を保てなくなります。ゆっくり降りていって、1つで水平飛行できる高度に落ち着きます。これを「ドリフトダウン」と呼びます。慌てて降りるのではなく、あらかじめ決められた速度と手順に沿って高度を落としていきます。

高度が下がれば空気が濃くなり、抵抗が増えて燃料の減りが早くなります。速度も落ちます。だから、そのまま目的地まで行くのではなく、近くの適切な空港へ向かうのが基本です。

問題は、海の真ん中にはその空港がない、ということでした。

何分以内に着けるか、を決めたのがETOPSです

そこで作られた考え方がETOPSです。エンジンが1つ止まった状態の速度で飛んだとき、何分以内に着陸できる空港があるかで飛べる範囲を決めます。

かつて双発機は、その時間が60分以内という制限を受けていました。海上を大きく迂回するしかなく、長距離は4発機の仕事でした。

その後、エンジンの信頼性が上がり、整備と乗員訓練に追加の条件を課すことを前提に、この時間が延びていきます。120分、180分、そして最新の機体では330分まで認められています。

空港 空港 60分の時代は大きく迂回 330分なら真っ直ぐ飛べる 認定時間が延びるほど、空港から離れた海の上を通れるようになります 薄い円=60分相当 破線の円=180分相当(模式図)
飛べる範囲を決めているのは、距離ではなく「1発で何分か」です。

330分という数字は、地球上のほとんどの海域をカバーします。4発機でなければ渡れなかった航路が、双発機で真っ直ぐ飛べるようになりました。

認定は、機体だけの話ではありません

ここが大事なところなのですが、ETOPSは機体の性能証明だけで取れるものではありません。

整備の記録、部品交換の履歴、エンジンが飛行中に止まった実績の統計。それらを継続的に提出して、基準を満たしていることを示し続ける必要があります。乗員にも、この運航のための追加の訓練が課されます。

出発前の確認項目も増えます。航路上の代替空港が使える状態か、その空港の天候はどうか。1つも使えない状況であれば、その日はその航路を飛べません。

信頼性の実績を積み上げて、はじめて認められる仕組みです。

おわりに

エンジンが2つの飛行機で海を渡れるのは、1つ止まっても飛べる設計になっていて、なおかつ止まったときに向かう先が決められているからです。

エンジンの数が減ったから安全性が下がった、という話ではありません。1つあたりの信頼性が上がり、それを裏づける記録を積み上げてきた結果、いまの姿になっています。

窓の外にエンジンが1つしか見えなくても、心配なさらないでください。