パイロットの英語は、どのくらい必要なのか

おはようございます。
パイロットをめざす方から、いちばん多くいただく質問のひとつが英語のことです。「どのくらいできれば足りますか」と聞かれます。
今日は、試験の点数の話ではなく、操縦席で実際に必要になる力について書こうと思います。
交信の大半は、決まった言い方です
まず知っていただきたいのは、管制官との会話が自由な英会話ではないということです。
管制との交信には、世界共通の決まった言い方があります。何をどの順番で、どの単語で言うかが定められています。高度の指示、進路の指示、離陸の許可。どれも型が決まっています。
なぜ決めてあるのか。話す人も聞く人も、母語が英語でないことが多いからです。表現を一つに絞っておけば、聞き間違いが減ります。
数字の読み方も決められています。聞き分けにくい数字は、日常の英語とは違う読み方をします。アルファベットも、一文字ずつ決まった単語に置き換えて伝えます。
ですから、英語が流暢に話せることと、交信が正確にできることは、同じではありません。流暢な人が、決まった言い方を崩してしまって伝わらない。そういう場面も見てきました。
決まった型から外れる場面があります
とはいえ、型だけで済めば苦労はありません。
決まった言い方が用意されていないことが起きたとき、そこからは普通の英語になります。機内で具合の悪い方が出た、機体に不具合の兆候が出た、天候の影響で経路を変えたい。こうしたとき、状況を自分の言葉で説明し、必要なことを頼まなければなりません。
正確に言えば、型から外れる場面こそが本番です。そしてそういう場面は、たいてい忙しいときに来ます。
難しいのは、文法ではありません
パイロットの英語で難しいのは、文法でも語彙でもありません。
聞き取ることです。
無線には雑音が入ります。話す速さは人によって大きく違います。世界中の管制官と話しますから、訛りもさまざまです。同じ周波数を多くの機が使っていますから、自分あての指示を、他機あての交信の流れの中から拾わなければなりません。
教材の音声はきれいに録音されていますが、実際の無線はそうではありません。この差は、想像より大きいと思います。
聞き取れなかったときは、聞き返します。これは恥ずかしいことではありません。わかったふりをして進むことのほうが、はるかに危険です。復唱して確認する仕組みがあるのは、間違いが起きる前提で作られているからです。
資格としての基準もあります
制度の面にも触れておきます。
国際的な運航に携わるパイロットには、無線の英語について定められた水準を満たすことが求められます。段階で評価され、水準によって有効な期間が変わります。一定の水準に達していなければ、更新のために受け直します。
会社に入るための基準は、また別に各社が定めています。数字は会社によって違いますので、ここでは具体的には書きません。ご自身が受ける会社の募集要項を見ていただくのが確実です。
ひとつ申し上げたいのは、入り口の点数がすべてではないということです。入ってからも英語は続きます。訓練の資料は英語ですし、機体の手順書も英語です。点数は通過点で、そこから使い続ける力が要ります。
これから目指す方へ
遠回りをした私から、実感としてお伝えできることがあります。
英語ができないから諦める、という話をときどき聞きます。もったいないと思います。必要な英語は、日常会話の全部ではありません。範囲は限られていますし、決まった型がある部分は覚えれば済みます。
一方で、「点数さえ取れば大丈夫」というのも違います。耳を鍛えることは、点数の勉強とは別に必要です。管制の交信は公開されているものがありますから、聞き流すだけでも耳は変わります。最初はまったく聞き取れなくて構いません。
英語は、目的ではなく道具です。安全に飛ぶために、伝えたいことを正確に伝える。そのための道具として身につけていけば十分だと思います。
おわりに
パイロットの英語は、点数の高さよりも、決まった言い方を正確に使えることが土台になります。管制との交信は世界共通の型が中心で、そこから外れた場面だけが普通の英語になります。
難しいのは文法よりも、雑音と訛りの中から必要な言葉を拾うことです。聞き取れなければ聞き返す。それが前提で仕組みが作られています。




